コラム

2017.05 京の庭・京の広場 出町の三角州―山紫水明 京都の原風景

出町の三角洲 北大路から続く河川敷の鴨川公園が正式名称だが、誰もそうは言わない。『出町の三角洲』、最近は『出町のデルタ』とも呼ぶ。高野川と賀茂川が合流する三角洲に出来た広場である。元々は砂州だったから、糺の森から松林を経て段々と低くなり先端は川面に没する。両岸のよく手入れされた河川敷も含めて、空に向かって広がる大きな空間で、その中心の三角洲から眺めると、比叡山から連なる東山と、穏やかに流れる鴨川という京都の原風景をかたちづくる二つの要素を一望できるビューポイントである。

 水温む5月には、三角州上手の糺の森の新緑と相まって、人工美と自然美のコラボレーションを楽しめる親水公園となる。芝の上には車座の学生サークルの集いがあり、ベンチにはカップルが、川には飛び石を渡る子供たち、そして水辺にはアオサギが佇んでいる。
 比良・比叡の山麓を源とする高野川と雲ケ畑を源流とする賀茂川が合流して奏でるBGM効果か、或は三本の橋と堤防がたくまずして防音壁となってざわめきをかき消しているのか、エアポケットに落ち込んだような静かな空間でもある。かつて比叡山の荒法師と比肩された鴨川も、時を経てすっかり穏やかになり京都市民の憩いの川になった。

 日が陰る頃には靄が立ち込め、かって頼山陽が山紫水明と感嘆した風景が浮かび上がってくる。いつしか平安京の頃にタイムスリップして、紫の上や静御前が川遊びしているかのような幻視におそわれる初夏の三角洲である。(M)

【2017年04月28日】

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