コラムcolumn

2024年02月16日

引当金の考え方を自治体職員に理解してもらうには

銀行を舞台とした人気ドラマ「半沢直樹」をご覧になった方も多いと思います。このドラマの中で、金融庁検査において融資先への資金に対する貸倒引当金の算定を巡って銀行と金融庁の見解が対立したことがありました。

自治体の現金主義会計の会計処理には発生主義会計の「引当金」という考え方がありません。銀行の融資の貸倒引当金の事例でいえば、銀行はホテルにお金を貸したけれどホテルの経営状態が悪く、貸したお金を回収できそうにない場合、その金額を費用として計上するとともに貸借対照表の負債に貸倒引当金を計上することです。つまりホテルに貸したお金は資産として計上しておき、その金額に対して回収不能額である引当金を負債として計上します(最終的には、この引当金の貸借対照表の表示は資産の減額として処理されます)。

このような引当金の考え方を自治体職員に理解してもらうために、私のいた習志野市での職員研修を紹介します。この引当金のうち貸倒引当金(統一的な基準では徴収不能引当金に変更)を身近な事例としたことです。

【事例】A子はB子に100万円を貸したが、B子は生活が苦しくて100万円まるまる回収できそうにない。将来返済できるとしても20万円程度で残りは諦めるしかない・・・

ここで回収の見込みのない80万円の情報が現金主義ではありません。自治体の場合は債権の放棄をして不納欠損の処分を行うことにより決算に反映させます。発生主義ではこの80万円を貸借対照表に引当金として計上することにより、より効率的な債権債務の管理ができることを多くの職員に理解してもらえました。

次に実務において引当金の算定を財政担当課でなく担当課にお願いしたことです。さらに過去の徴収不能実績率などによる簡便な方法の算定は税金関係の未収金など件数が多いものに限定し、原則は担当課職員が個々の債権の回収可能性によって債権を3種類に分類してもらったことです。すなわち、まず、「回収の見込みがある債権(引当金の設定なし)」と「回収の見込みがない債権(全額を引当金に設定)」に分類し、その他は回収の見込みがどのくらいかわからない債権として引当金を50%設定するという方法です。なお、この3区分のよる算定方法は総務省の統一的な基準による地方公会計マニュアル(令和元年8月改訂)のP379-381に習志野市の未収債権の徴収体制の強化の事例中で紹介されています。

このように引当金の設定意味の研修と個々の債権の引当金の判断を職員に考えてもらうことで職員の意識改革にもつながりました。

システム ディ顧問 宮澤 正泰(元習志野市会計管理者)