2016/09/01
2016.09 京の食材 秋を告げる『丹波松茸』…味覚の王様、実は薬味の王様?
秋の味覚の王様は、松茸と決まっているようだ。貴重な高級品だが、『匂い松茸、味しめじ』とも言われている。その匂いすらも、欧米人は「軍人が履き続けた靴下の臭い」と嫌うそうだ。以前ベジタリアンのイギリス人に焼き松茸をご馳走したことがあった。匂いや味については格別の感想がなかったそのヤサイ人も、値段については大袈裟に驚いていた。欧米人には、日本人が松茸を何故これほど好むのか?大きな謎なのだろう。
かつては、京都市内の銀閣寺の裏山辺りでも松茸が採れた。きのこ類は腐葉土の多い湿ったところに良く生えていそうなものだが、松茸は落ち葉の少ない適度に乾燥した赤松の根元に生える。手入れの行き届いた、だが人が踏み荒らしてない処でなければ生えない。次第に人の手が入らなくなり松くい虫の被害もあって、今は亀岡から北の丹波高原一帯で『京都方式』という特別な手入れをされた‟松茸山”が、丹波松茸の特産地になった。
9月も中旬になれば朝採りの丹波松茸が、店頭に並ぶ。秋の到来である。初めは料理屋さんで土瓶蒸しなどに、傘が開いたものが出回るようになって価格も落着く頃には食卓でも味わえるようになる。最近はDNAが極めて似通っていて日本産と変わらない、安心で安価な北欧産松茸が、輸送手段の発達で新鮮なまま提供されるようになってきた。
で、そのレシピだが、純粋に松茸だけの料理はホイル焼きか網焼き、天ぷらぐらい。あとは殆ど炊合わせ。酢橘をかけた焼きマツもサクッとした天ぷらも、不味くはないが飛切りの味ではない…それよりは、土瓶蒸しの銀杏や白身魚とすまし汁、すき焼きのお肉や豆腐・白滝、要するに炊合わせた具が、そしてなんといっても松茸ご飯が格別に美味しい。松茸ご飯こそ『加薬ご飯』の王様!
とすれば、松茸は超高貴で超尊大な薬味なのかも知れない。薬味ではあるが、その匂いオーラによってどんな料理でも主役になるのだから。(M)