2018/08/01
2018.08 新京都八景…風止みて 猛暑の夕に 香を聞く
五感を研ぎ澄ましてことに当たるというが、視覚・聴覚・味覚・触覚は、人夫々の好みがあって好き嫌いは千差万別で、特段意識せずともこと足りる日常的な行為である。が、嗅覚は少し違う。基本は良い香りとくさい臭いのどちらかで、誰しも良い香りを好む。気持ちを和らげ、穏やかにリラックスさせたり、逆に意識を覚醒させたり、ちょっと身構える。同じ空間であっても空気が変われば、気持ちも変わる。
アロマセラピーは、女子のストレス解消。臭い袋は芸伎さんの必需品。お香はアーティストの覚醒剤。
香道では、香りを嗅ぐとは言わない。香りを聞くのである。奈良時代から香を楽しむ習慣があった。最古の記録は日本書紀に記されている、淡路島に流れ着いた香木が推古天皇に献上されたというものである。平安時代には東南アジアや中国から香木が国内に持ち込まれ、この頃は体臭隠しの要素もあったと思われるが、特に公家社会で広がった。なかでも鎌倉時代に輸入され正倉院に今も保管されている『蘭奢待』は、足利義政や織田信長、そして明治天皇に切取って献上されたほどの銘木である。香木による香りの違いが意識されて、その香りを聞き分ける技芸が香道として、室町時代に確立されてきた。
体臭の強い外国人観光客が都大路に増えたからではないだろうが、烏丸通り沿いの御所南に新しいお香の情報発信拠点が誕生した。300年の暖簾を誇る松栄堂の『薫習館』である。目に見えない香りの情報を発信する。香りを聞き、香木を確かめ、香道のイロハを学ぶ。『伽羅』『羅国』や『白檀』等の伝統的香だけでなく、スミレやレモンなどの若々しい香りも今風なのだろう。
自分好みに演出した香の空間で、暑い夏を楽しもう。(M)