コラムcolumn
2023年05月08日
地方自治法になぜ財務書類の規定がないのか
地方自治法は自治体の組織や運営に関して定めた法律です。自治体職員が仕事をする上で理解しておかなければいけない重要な法律です。この法律の中に決算の規定があります。ここでいう「決算」とは、現金の収支を整理した、いわゆる現金主義・単式簿記の会計による決算のことです。
一方、発生主義・複式簿記を導入した会計を「公会計」と呼んでいます。では公会計で作成された「財務書類」が地方自治法に規定がないのはなぜでしょうか?現状では法律を根拠としているわけではなく、総務省の大臣通知などの強い要請で財務書類の作成が求められています。
法制化しないことについて、第90回地方分権改革推進委員会(平成21年7月21日)の会議録からヒントがありました。委員から「運用として発生主義の考え方や複式簿記的な手法が取り入れられ、複雑化している。これらを現実の財務会計に活かしていくために、地方自治法の抜本的な見直しを要すると思うが、どうか」の意見があり、総務省は「現行の地方自治法の財務会計制度での決算書類では、地方自治体の財務状況を正確に説明できない部分があり、それを補完するものとして、財務書類を効率的に普及させていく取組を続けていく」との説明をしており、法制化についてハードルが高いと感じているようで、「補完」という位置づけの考え方を現在も踏襲しています。
ではなぜ法制化が実現できないのか。時代を遡り 昭和38年に地方自治法の抜本的な改正にあたり「発生主義・複式簿記の導入による近代的な会計制度の確立」という提言が当時の自治大臣の諮問機関である地方財務会計制度調査委員会からありましたが実現されませんでした。実現に反対する理由として「複式簿記が理解できない。作業が増える。実益がない。会計理論にすぎない。」などやりたくない理由をあげているように感じました。
この調査会に習志野市の初代白鳥市長が委員として参加しており、実際に、昭和35年度には貸借対照表を広報(昭和36年10月10日)で公表してしていました。白鳥市長が退任後は「面倒な複式簿記は廃止となった」と当時を知る職員から聞きました。
公会計の業務は法制化されていないことから仕事の優先順位も下がり、なお一層の公会計の活用には障壁があるのが現状ではないかと感じています。
■宮澤 正泰(ミヤザワ マサヤス)
元千葉県習志野市会計管理者。
宮澤公会計研究所代表。
株式会社システムディ公会計ソリューション事業部顧問。
総務省「地方公営企業法の適用に関する調査研究会」委員及び「地方公共団体における固定資産台帳の整備等に関する作業部会」委員、「今後の新地方公会計の推進に関する実務研究会」サブメンバー、「地方公会計の活用の促進等に関する研究会」委員を歴任。
一般社団法人英国勅許公共財務会計協会日本支部 (CIPFA Japan)から2016年度 MITSUNO AWARD を地方公会計教育への貢献により受賞。
主な著書は、
『公会計が自治体を変える!バランスシートで健康チェック』(第一法規)
『公会計が自治体を変える! Part2-単式簿記から複式簿記へ』(第一法規)
『公会計が自治体を変える! Part3-財務データの分析は行政改革の突破口』(第一法規)
『公共部門のマネジメント(共著)』(同文舘出版)
『自治体議員が知っておくべき新地方公会計の基礎知識』(第一法規)
『自治体の会計担当になったら読む本』(学陽書房)
『はじめての自治体会計0からBOOK』(学陽書房)
『例規でわかる! 1年目のための公務員六法』(学陽書房)
『財務書類の見方・作り方がわかる! 地方公会計ワークブック』(学陽書房)
など。