コラムcolumn
2024年04月24日
自治体経営に減価償却費は役に立つの?
※習志野市の財務報告書2010(平成24年3月発行)裏表紙より
官庁会計(現金主義・単式簿記)は資産やコストの情報が欠如しているから、それを補完するために新公会計制度(発生主義・複式簿記)の導入が必要とされてきました。その説明として「減価償却費」の事例がよく使われています。
現金で車両(取得価額100万円、耐用年数5年とします。)を購入した場合、官庁会計では、購入時に現金100万円の減少という記帳しかされず、2年目以降の会計処理はありません。新公会計制度では、まず、現金100万円という資産の減少と、100万円の車両という資産の増加という2つの記帳がされます。このことにより、資産を把握することができます。2年目以降、減価償却されますので、1年間の減価償却費は20万円(取得価額100万円÷耐用年数5年)の記帳を行ないます。それとともに、20万円の資産の減少という記帳がされます。これにより、車両の帳簿価額(資産としての価額)は80万円となります。
このように、減価償却費という費用の発生を計上することで、コストを把握することが出来るとともに、資産の減少を計上することでストックを正確に把握することができます。
では、減価償却費は事業別のコスト計算書や資産の更新時期の経営判断に役に立つのでしょうか?習志野市での事例ですが、2億円の災害対応特殊はしご付きポンプ自動車を購入したことがあります。使用可能年数は20年と判断しました。この場合の1年間の減価償却費は1千万円(2億円÷20年)となります。併せて、更新時期は20年後ということで計画を立てました。しかし、現行の「統一的な基準による地方公会計マニュアル(以下「マニュアル」という。」での耐用年数は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」に従うことになり5年の耐用年数となり1年間の減価償却費は4千万(2億円÷5年)となり、実際使用した場合の6年目以降の減価償却費が計上されないことになります。これでは消防関係の事業別コスト計算書は役に立つとは言えないし、この消防車両の更新時期も実際と異なってきます。
このように耐用年数より現実の使用可能年数が長い場合などは、使用可能年数を耐用年数として分析をしなければ、公会計情報が役に立つとは言えないでしょう。総務省のマニュアル(令和元年8月改訂)のQ&A集では「耐用年数を長くすることは、単年度の減価償却費の低減につながるため、保守主義の観点から、厳密に取り扱う必要があります。」との回答となっています。消防車両の事例は私が総務省の委員の時、問題提起をしましたが、消防車両の耐用年数を長くすることは認められませんでした。公会計のさらなる活用にあたっては、もう一度、耐用年数について検討の必要があると感じています。
システムディ顧問 宮澤 正泰(元習志野市会計管理者)